他科との連携体制構築について

歯科口腔外科、耳鼻咽喉科、形成外科にまたがる疾患に連携して対応できる診療業務改善への取り組み

多くの診療科において他科と競合する境界領域が存在します。特に、琉球大学病院の中で歯科との境界領域が問題となるのは耳鼻咽喉科と形成外科です。耳鼻咽喉科では口腔癌、嚥下障害、形成外科では口唇裂口蓋裂などが、歯科の診療科である口腔外科との間での境界領域の疾患に相当します。患者の立場に立った安心・安全で質の高い医療を実現するためには、診療範囲の明確化を行うとともに、それに従って職種や診療科、部門を超えた連携が必要です。全ての病院にとって、多職種の共同作業である医療提供においては、職種間の作業内容の整理が必須であり、これらの整備により医療の質の向上を図る必要があります。当科では以上の背景を踏まえて、以下の取り組みを行ってきました。

1.口腔悪性腫瘍診療における耳鼻咽喉科、形成外科、歯科口腔外科の連携構築

口腔悪性腫瘍診療には、腫瘍の口腔領域外への進展に加えて全身的な合併症や、抗癌剤の副作用への対応等に体系的な医学知識が必要です。さらに、それぞれの診療科の仕事内容は重複しないほうが効率的であることから、3 科合同のカンファレンスを毎週開催し、役割分担を明確にし、チームで意思統一し、協働しながら、各々の技術を十分に発揮できる体制が構築されています。これにより、口腔腫瘍の治療は、耳鼻咽喉・頭頸部外科が主に悪性疾患の手術、周術期管理を行い、形成外科は腫瘍切除部位の再建を行い、歯科口腔外科は良性疾患の手術、頭頸部癌患者に対する口腔管理、歯牙顎欠損部分のインプラントや顎補綴、放射線性齲蝕や真菌性舌炎の予防と治療を行うというように業務内容を分担し、また必要に応じて協働して診療を行う体制が構築されています。

2.口唇裂口蓋裂診療における耳鼻咽喉科、形成外科、歯科口腔外科を中心とした多職種での取り組み

口唇裂口蓋裂児が心身ともに健全な状態で社会生活を営むためには、出生直後から成人に達するまでに審美障害のみならず哺乳障害、発音・構音障害、不正咬合、さらに心理的問題など多岐にわたる問題点の治療が必要となります。これらの問題点に対する治療を円滑に行うためには、多岐にわたる原因や対策を考え、円滑なチームワークに基づく一貫治療が不可欠です。琉球大学病院口唇裂口蓋裂センターを、形成外科、耳鼻咽喉科、小児科、産婦人科の医師ならびに歯科医師(歯科口腔外科医や矯正歯科医、言語聴覚士)、病棟看護師で新たに構成し、口唇裂口蓋裂の患者さんが抱えるさまざまな問題について、哺乳、手術、ことば、咬み合わせの治療など各科・多職種が協力して一貫治療を行う体制が構築されています。

3.嚥下障害診療における多職種での取り組み

嚥下障害は口腔準備期、口腔期、咽頭期、食道期がシームレスに移行する一連の運動により成り立っています。よって、嚥下障害に対しては、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科および歯科口腔外科が連携しながら対応することが必要です。嚥下障害に対して原因診断、病態評価を行ったのち、経口摂取の可否の判断や安全な食形態の選択、代替栄養法の適応判断、嚥下訓練や外科的治療の手技選択など、一連の対応を適切かつ円滑に行うために、琉球大学病院ではリハビリテーション科、耳鼻咽喉科医師、歯科医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、理学療法士、歯科衛生士でチームを形成し、毎週、カンファレンスとラウンドを行うことにより、嚥下診療連携体制構築と役割分担に関して意識統一できる体制が構築されています。これにより、琉球大学病院での嚥下障害診療の提供が推進され、嚥下障害患者の健康寿命の延伸、経口摂取の回復が期待されます。

周術期口腔機能管理体制の整備

タスクシフトと連携強化によるもれのない受診への取り組み

琉球大学病院歯科口腔外科では、2012 年より周術期口腔機能管理に取り組んできました。しかしながら、医師からの依頼は少なく、患者さんは口腔内環境が不良のまま、手術や抗がん剤治療などが行われていました。周術期口腔機能管理の重要性は、セミナーや勉強会の開催等で浸透しつつありましたが、依頼の手順が煩雑なため、多忙な医師が依頼を敬遠することから、多くの口腔機能管理が必要な患者さんが見過ごされてしまうという課題がありました。このような課題を解決するために、2021 年度は周術期口腔機能管理の依頼手順をタスクシフトし、かつ口腔機能管理が必要な患者さんをもれなく拾い上げるために、以下の3つの取り組みを行ってきました。

1)入退院支援室へのタスクシフトによる周術期口腔機能管理対象患者の拾い上げ
入院決定時、入退院支援室で看護師が対象患者に対して周術期口腔機能管理の必要性を説明し、承諾の得られた患者さんに歯科口腔外科外来の受診を指示します。入退院支援室のスタッフとは、必要性の判定基準などの情報の共有を行い、個別の症例に対しての問い合わせにも歯科口腔外科外来看護師、歯科衛生士が丁寧に対応しました。また、看護部の協力もあり、口腔ケアリンクナース等、口腔機能管理に理解が深い看護師を入退院支援室に配置して頂きました。この取り組みにより、対象患者さんをもれることなく拾い上げ、周術期口腔機能管理につなげることが可能になっています。問題が発生した際は、その都度速やかに入退院支援室と話し合い、解決に取り組むことにより統一した患者対応が可能となっています。

2)歯科口腔外科外来での担当歯科医師による周術期口腔機能管理対象患者のスクリーニング
歯科口腔外科外来では、スクリーニング担当歯科医師を設け、周術期口腔機能管理対象患者さんを確定します。担当歯科医師は、原疾患や治療内容、スケジュールを踏まえた上で、スクリーニングを行い、原疾患治療時における周術期口腔機能管理の重要性を患者・家族へ説明し、納得して同意を得た時点で同意書の作成と周術期口腔機能管理のための受診日を予約します。

3)医師事務作業補助者(Dr クラーク)へのタスクシフトによる紹介状作成の依頼
これまでスクリーニングの後、主治医へ直接紹介状作成の依頼を行っていましたが、多忙な主科の医師の負担を軽減するため、各科のDr クラークへ依頼し紹介状を作成する方法に変更しました。ただし、Dr クラークが作成した紹介状は主治医の確認が必要としました。この取り組みにより、主治医の紹介状がないため、周術期口腔機能管理が開始できないという問題がなくなり、患者さんの受診までの無駄な待機時間が解消されています。

周術期口腔機能管理のようなチーム医療を推進するには、①コミュニケーション、②情報の共有、③チームマネージメントの3つの視点が重要です。歯科口腔外科、入退院支援室、各科Dr クラークと情報や課題を共有し、目標に向けて調整しながらそれぞれの見地から課題の解決を行うことが大切です。一方で、医学部病院では、歯科口腔外科単独の要請により大きな体制の枠組みを新たに構築するのは困難です。このような背景を踏まえて、すでに稼働している既存の入退院支援室と連携し、さらに周術期口腔機能管理の依頼の際の主治医の負担を、入退院支援室の看護師や各科のDr クラークにタスクシフトしました。その結果、周術期口腔機能管理が必要な患者さんをもれなく拾い上げることが可能になりました。

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